墓と薔薇

閑話:レハール伯爵夫人のはかりごと(4)


 ブラウアー邸を出てすぐ運良く捕まえることができた辻馬車に乗り、 デュシアンは逸る気持ちを抑えながら窓から外を窺い続けた。 ポプラ並木の合間から見えては消えていく建物を凝視する。
 執事が教えてくれた、ニーナが連れ攫われたと思われる貴族の屋敷は王立植物園近くにあり、 偶然にも難なく地理が掴める土地であった。城から離れた郊外にはなるが、貴族の邸宅は多い。 この辺りは建物同士の間隔が大きく空いており、庭に大樹を植える屋敷が多いことも相まって、 隣り近所で何か起きていても気づくことはないだろう。
 目印は、蔦の絡まる白い石造りの屋敷とのことだった。そこはブラウアー子爵が失脚する前からツィラに圧力を掛けてきた 《ドニ伯爵》の屋敷で、ツィラは執事と共に一度その屋敷のサロンでの茶会に訪れたことがあるのだという。 手紙から香っていたのはその伯爵が愛用する香水で、彼の代名詞ともいえる匂いなのだそうだ。
 なかなか見えてこない屋敷に対し、徐々に不安が募る。もしも乱闘騒ぎになっていてシーンが負け、 ツィラとニーナに魔手が伸びていたら。
――そうしたら、わたしはどうすればいいんだろう
 そんな後ろ向きな考えはすぐにも吹っ飛んだ。
 堅牢そうな鉄柵の門から身体を半分出して、男が一人倒れているのだ。 目印たる屋敷を見つける前に、目的地に着いたことを悟る。
 そこを通り過ぎてから御者に停めるよう指示し、 何も気づいていないような御者に金を握らせるべきなのか逡巡しながらもやや多めに賃金を支払い、 さっさと立ち去る辻馬車を見送った。
 倒れる男に駆け寄り膝をついて脈を確認してみれば、ただ気絶しているだけと分かって安堵した。 人通りが少ない場所ではあるが、これはあまりにまずいと眉を寄せる。
 デュシアンはうつ伏せに倒れる門番と思われる男の足首を掴むと、 意識を取り戻さないことを祈りながらその体を完全に門の内側へと引っ張り入れた。 外から死角になる位置にとりあえず安置する。女の手ひとつではこれだけで疲れてしまうが、これで終わりではない。
 絡む蔦の合間から真白い石壁を覗かせる屋敷を見上げながら覚悟を決めると、 前庭を抜けて玄関の扉をそろりと開けた。途端に悲鳴を上げそうになる口元を慌てて手で押さえる。
 来客者をもてなす為にか広く造られた玄関には十人弱の男たちが方々に倒れていた。得体の知れない風体のならず者だけでなく、 身なりの良い使用人も一緒に倒れている。慌てて一人ずつ脈を確認してみたが、外の男と同じようにただ気絶しているだけだった。 よくよくみれば、誰からも血は流れていない。 とりあえず、血気盛んで乱暴そうなシーンは意外にも剣を抜いての流血沙汰は起こしていないようだった――今のところは。
 これだけ荒れた玄関を見てしまえば、もはや勝手に屋敷内を動き周ることに躊躇はなかった。 どこから探そうかと思った瞬間、不明瞭ながらも激しい口論のようなものが頭上から聞こえ、 何かが叩きつけられるような大きな物音が響いた。天井からぱらぱらと細かい塵が落ちてくる。
――上だ
 横たわる傭兵まがいのならず者を飛び越えながら階段を昇り、人の声がする方へと足音を立てないように、 また倒れている人を踏まないように静かに突き進んだ。
 二階最奥の扉の前にはまた二人ほど倒れている。その身にまとう仕込みポケットの多い外套と首から下がる護符(アミュレット)から、 職業魔道師ではないかと思われた。彼らは恐らくはこの長い廊下における最後の守りの要だったのだろう。 しかし見事にのびている。
「手を頭の後ろに組め!」
 一瞬、自分に対して浴びせられた命令かと緊張したが、そうではないと知り、額を覆った冷や汗を拭った。 デュシアンは開いた扉の影にしゃがんで身を潜めると、 軽く顔を覗かせて室内を窺った。まず、赤髪の女性とその彼女を庇うかのように一歩前に出る男性の背中が見えた。 シーンとツィラであろう。二人が無事で、深く安堵した。
 二人は部屋の扉付近に背を向けて立ち、部屋奥の誰かと言い争っているようだった。先ほどの命令も、その奥の者の声だろう。 二人を壁にするように奥を覗くと、身なりの良いやや小太りの男の姿が見えた。 普段はきっと丁寧に整えられているはずの前髪は乱れ、目は興奮に見開かれている。
 そしてその男の腕には薄紅色の衣服を着たニーナががっちりと抱え込まれていた。 彼女の細い首には恐ろしいほど刃物が食い込んでいる。男はシーンに武装解除するよう喚いていた。
 どこかで覚えのある状況に、デュシアンの心臓は早い鼓動を刻んだ。
――どうしよう、これって互いに動きが取れないのかも
 ニーナを掴む男――ドニ伯爵は、状況からして追い詰められている。 屈強な護衛たちを全てなぎ倒し、魔道師までも沈めた円卓騎士が目の前にいるのだ、 伯爵も自分の命運は尽きかけていると理解しているのだろう。しかし、もはや逃げられないと悟れば、 自棄になってニーナを傷つける可能性がある。だからこそシーンもツィラもあれ以上近づけないのだろう。
――なにか、打開策になる魔法を考えなくちゃ
 ここで名乗りでてもドニ伯爵を興奮させるだけに思えた。まずは伯爵からニーナを引き離さなければならない。
 どんな魔法を創りだせばニーナを傷つけずに救出できるか、 デュシアンは胸元の護符(アミュレット)に触れながら、座ったまま考えた。
 相変わらず火の魔法は苦手であるから、それは却下した。その他、冷水を被せて頭を冷やさせることや、 正面からの突風で視界を奪うこと、地震で足元を覚束なくさせること、目くらましの光を使うことなど色々思いついたが、 どれもニーナの首に刃物を当てる伯爵の手元を狂わせるかもしれないので危険だった。 外であったのなら草や樹木が縄の代わりになるのだが――そこまで思い当たって、デュシアンは顔を上げた。
――窓は?
 建物を覆う蔦を思い出す。そうでなくても場所柄、庭には巨木が多い。窓は開いていないかと室内をこっそり見渡すが、 見える範囲内の窓は全て閉まっていた。落胆しそうになる中、室内の右奥にクジャクヤシと思われる大きめな観葉植物を発見する。 小さくとも樹木だ。世紀の発見をしたかのような喜びに小躍りしそうになるが、気持ちを引き締めて精神を集中させた。
――樹木の精霊、ちからを貸して
 波長を合わせた魔力を流し、呼びかける。 すると、クジャクヤシの細い枝が瞬時に伸びたかと思えば互いに絡まって柔軟な縄のようになると、 シーンやツィラばかりを警戒していた伯爵の横からその身を拘束した。同時に、 ニーナを掴む腕や刃物も枝がしっかりと巻き付いて抑えた。思ったよりもずっと上手くいったことにデュシアンは大きく息をつく。
 ニーナは枝の力で自由を奪われた男の腕から解放され、膝から崩れるようにその場に腰を落とした。
 そしてシーンとツィラが息を合わせたかのように二人同時に駆け出したかと思えば、 シーンはニーナを抱き起こして伯爵から距離を取り、 ツィラは裾をたくし上げてその長くほっそりとした脚を高く上げたかと思うや否や、伯爵の突き出た腹を蹴り倒した。 伯爵は吹っ飛んで壁に背をぶつけ、そのまま座り込む。体術の心得はないと聞いていたが。
「……逆じゃないの?」
 目の前で繰り広げられた、想像とは真逆の光景にぼそりと呟けば、案外室内に響いてしまったらしく、 シーンとツィラ、ニーナの視線がこちらに集まった。ツィラとニーナはこちらの存在に初めて気づいたようで驚いていたが、 シーンは特に反応を見せなかった。恐らくは背後に誰かしらがいることに気づいていたのだろう。
「この魔法は、あんたか」
 ドニ伯爵を強く拘束する樹木の縄を、シーンは顎で指した。特に隠す必要もないので頷く。もはや隠れている必要もないので、 デュシアンは立ち上がると室内に入った。
「樹木の精霊とは相性がいいみたいです。ちょうど観葉植物があったので」
 そうでなければ、ニーナを傷つけないで解放する自信がなかったと情けなくて苦笑する。
「ら、ラヴィン公……?」
 ツィラの蹴りから立ち直ったのか、伯爵は植物の縄で拘束されたまま青白い顔でこちらを見ていた。 本当によく顔が知られているのだなと、己の知名度に感心してしまう。
 皆が無事であったことへの安堵に緩んでいた表情を引き締め、ドニ伯爵に向き直った。
「わたしをご存知のようですね。それなら話が早い。こちらのツィラ・ブラウアーとニーナ・ブラウアーの二人は、 ラヴィン家当主たるわたしの保護下にあります」
 デュシアンはシーンが支えるニーナをちらりと見て、その全身を確認した。彼女に目立った外傷も、乱暴された形跡もみられない。 それは不幸中の幸いだろう。
「怪我も、ありませんか?」
 ニーナに問いかければ、彼女は小刻みに震えるように何度も頷いた。慰めるようにその背をシーンがさする。
 もう一度ドニ伯爵へ視線を戻すと、デュシアンは従兄の態度を思い出して、 それを真似をするように顎を上げてつらつらと告げた。
「今回は誰も傷つかなかったことから大目にみますが、これ以上余計な手出しをするようであれば、 わたしにも考えがあります。……よくお考え下さい」
 公爵という地位を際限なく前面に押し出すように、傲慢でもったいぶった演技で牽制した。
 うな垂れて意気消沈した伯爵を見て、その目論見が成功したことを悟る。 もはやこれ以上の拘束は必要ないだろうと魔法を解けば、伯爵は拘束が解けてもそのまま動かなかった。
「わたくしは、この公爵に守ってもらうわ」
 伯爵の様子を窺っていたデュシアンは、急に腕を取られて僅かに均衡を崩しそうになった。 隣りには何時の間にかツィラが立っていたが、彼女の視線はニーナに向いている。
「貴女は、その男に守ってもらいなさい」
 冷たく馬鹿にするように妹へそう告げると、ツィラはデュシアンの腕を持ったまま歩き出した。急な話についていけなくて、 引っ張られながらもつい後ろを振り返れば、シーンがニーナを強く抱きしめている姿が目に飛び込んできた。 ニーナの手が躊躇いながらもその逞しい背に回るのを見て、慌てて前を向き直す。
――ツィラさんの方じゃ、なかったんだ
 シーンが真に心配していたのは女神アニカの化身と謳われるような華やかな美女ではなく、 ともすれば姉の影に隠れてしまう可憐な少女の方だったのだ。 下世話なことだと理解しながらも、あの粗暴そうな騎士を思えばその意外さに驚きを隠せなかった。

「あの男は、親同士が決めたわたくしの許婚(いいなずけ)だったのよ」
 伯爵の屋敷を出て平穏なポプラ並木を歩きながら、ツィラは不機嫌そうにぼそりと呟いた。 《あの男》とはシーンのことであろう。
――許婚『だった』?
 まさか、ブラウアー子爵があのようなことになって破棄されたのだろうかと息を呑む。 しかしそれを咎めるようにツィラはこちらへその燃えるような緑の瞳を向けてきた。出会った当初と変わらず、 彼女の双眸は憎しみを湛えている。しかし、デュシアンは傷つかなかった。
「違うわ。お父様のことがあったからじゃない。もっとずっと前、七年前よ。あの男は十四歳の時に実家から勘当されたの。結果、 婚約も破棄されたわ」
 ツィラはまた正面を向いた。気の強そうな表情でつんと顎をあげる。
「でもそれで良かったのよ。あの男はずっと、ニーナが好きだった。歌うことばかりに精を出していたわたくしと、 ずっとあの男と向かい合って心配をし続けたニーナとでは、あの男に尽くした時間があまりに違う」
 憐憫に揺れながらも誇り高さを忘れない横顔をデュシアンはじっと見つめた。
「今でこそ騎士になってるけど、昔は手が付けられない程の不良だったのよ、あの男。神官家の厳しい家訓と、 優秀な兄二人の存在に耐えられなくて、十一の頃から下町の素行のよくない少年たちとつるみ始めたわ。 親すら見放したあの男を、ニーナだけが説得し続けた。あの男が悪い人間になったら、将来結婚するわたくしが可哀想だから。 不幸になるからって。ニーナだけが、ずっとあの男を見捨てなかった」
 結局、ニーナの説得の甲斐なく実家の伯爵家から勘当されることとなった。 けれどもそのおかげで騎士になる道が開けたのだと、とツィラは続けた。
「あの男をまっとうな道に戻したのはニーナなのよ。 今のあの男がああやって騎士として大きな顔ができるのもニーナのおかげなのよ。婚約なんてもうとっくの昔に破棄されてるのに、 それなのに二人ともわたくしに遠慮して、互いに自分の思いを告げることはなかったわ。 あんなにお互いを思いあってるくせに。それなのに、馬鹿みたい」
 凛と背筋を伸ばし、ツィラは真っ直ぐ前だけを向いていた。その横顔はとても美しいのに、どこか寂しげだった。 ツィラは彼女なりにシーンを思っていたのだろう。それがどこまで深い思いであったのかは分からないが、 しかし妹と元許婚の事を語る口ぶりは、言葉とは裏腹に優しさに溢れていた。
 不意に切ない思いが胸に去来する。自分は彼女のように、恋しい人の幸せを気高く祝福することができるだろうか。
――わたしには……
 抱き合うシーンとニーナの姿が黒髪の公子と飴色髪のリアーヌ公女とに重なり、ざわめく胸を押さえて首を振った。 自分にはとてもできそうにない、と。
 デュシアンはツィラの強さに憧れを抱いた。
「貴女のことは、わたしが守ります」
 慰めにもならない言葉を告げれば、鼻であしらわれた。
「貴女も、馬鹿みたい」
 ツィラは嗤う。けれどもその瞳は揺れていた。
「わたくし、貴女が大嫌いよ。誰よりも憎いわ」
「それでも、わたしは貴女を守ります」
「貴女を利用してやるわ」
「はい」
 ツィラの視線がちらりとこちらを向いた。安心して欲しくて微笑めば、 彼女は嫌なものを見たと言いたげに顔を背けた。それで良いと、デュシアンは思った。
 人に嫌われたいとは思わない。けれども彼女たち姉妹に関して言えば、ブラウアー子爵の失脚という大前提がある為に、 好かれる事は万に一つも有り得ないと理解していた。故に、ただ信頼して貰えさえすればいいと思っていた。
 そして、恐らくその信頼を今回で勝ち得たのだと悟った。それだけで充分だった。



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 王立劇場の正面に堂々と停まった白い箱馬車の家紋は、北の守りを司る名門ラヴィン公爵家のもの。 まず出てきたのは深紅の礼服に身を包んだ男装の女公爵デュシアン・ラヴィン卿。 その彼女が差し出す手に手を重ね馬車より出でるは、黄金の綺羅めかしい衣装を纏った歌姫ツィラ・ブラウアー。 互いの髪の色を模した衣装を身にまとう異色の組み合わせに、居合わせた一同が固唾を呑んで見守る中、 デュシアン卿の腕に手を添えた歌姫ツィラは、卿と共に劇場への広い階段を昇る。
 最上段にてデュシアン卿は振り返り、眼下の観衆へツィラを紹介するように傍らの彼女へ笑む。 ツィラは空いた片手で軽く裾を掴み優雅に一礼すれば、卿はそんな彼女に鷹揚に頷いた。 そうして仲睦まじく劇場へと共に入場するさまは――

「まるでお伽の国の王子さまとお姫さまのようだった――と。そう伝え聞いておりますわ」
 重ねた両手を頬の横につけながら、ティアレル・アリスタは楽しそうに、どこか嬉しそうに微笑んだ。
 本日はお日柄も良く、アリスタ伯爵家に招かれた。レハール家の茶会に出席したのならば、 我が家にもお越しくださいと誘われたのだ。 彼女は二人だけの茶会を始めて早々、城で持ちきりの脚色された噂話を語ってくれた。
「……そうですか」
 デュシアンは暖かい紅茶を飲んで溜息を濁した。当然のことながら、その《お伽の国の王子さま》とは自分のことであろう。 そう見えるよう狙ってやった事とはいえ、やや複雑な気分となる。
 ツィラを庇護していると大々的に宣伝するには、王立劇場への同伴が一番効果的だと思ったのだ。 功を奏したようで、噂が駆け巡っているらしい。ただの王子さまとお姫さまのような噂だけなら良いのだが、 『ラヴィン公がまたも情の篤さをみせた』や『わたしもエスコートされたい』というような噂も耳にしたので、 デュシアンとしては辟易もしていたのだ。
 そもそもあの時はツィラにずっと、「とろい」や「笑顔が硬い」、「背筋をもっと伸ばせ」、「真っ直ぐ歩け」、「へたくそ」 などと、小声でちくちくと攻撃されていたのだ。噂話のように素敵なものではないのだが。
「レハール伯爵夫人も、きっとお喜びでしょう」
「そう、でしょうか?」
 ブラウアー姉妹を守ることが出来ての喜びか、それとも問題を解決した女公爵の働きへの喜びか。 分かりかねてデュシアンは首を傾げた。
「ご存知ではありませんか、レハール伯爵夫人の三番目のご子息を」
 長男とは顔を合わせたことがあるのでその存在は知っていたが、次男や三男がいることは知らなかった。
「レハール伯爵家は歴史ある名門の神官家でもあります。それ故に家訓は厳しく、 反発した三男は幼い頃から悪さばかり重ね、家庭教師にも匙を投げられ、とうとう街の悪童たちとつるむようになったそうです。 家族の誰もが彼を見捨てていくなか、一人の少女だけが彼をいつも迎えに来たのだそうです。その少女は、 姉の許婚が悪人になっては姉が可哀想だと、来る日も来る日も彼を説得しに来たのだとか。 彼は、姉の為とはいえ危険を顧みずに下町まで迎えに来ては真っ直ぐに自分を見つめ、 誰もが見捨てる自分を心配してくれるその四つ年下の少女を――許婚の妹君を、ずっと、ずっと、思っていたのですわ」
「……それって」
 数日前に似た話を聞いたばかりだった。
「夫人は、勘当したとはいえご自身の三番目のご子息も、そしてそのご子息の心を救った許婚の妹君のことも、 常に大そう気に留めていらっしゃったのですよ」
 全ての事象が繋がり、デュシアンは深く納得し、試されているとわずかに反発していた思いをかき消した。 きっとこれでレハール伯爵夫人の心も安まるだろうと嬉しくなり、笑みが零れた。
 ことの巻末を知っているのだろう、ティアレルは『でもだからって、(ほだ)されては駄目ですからね』と微苦笑を浮かべるのだった。


閑話『レハール伯爵夫人のはかりごと 終』
(2010/6/21)

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